友人との会話で「小説を小出しにしたらどうだ」と言われて「辻褄の合わないストーリーになるぞ」と答えたのですが、それも面白い試みと思いまして後先考えず話を書いてみることにしました。ただ、今書いている「小山文義」や「君は君のまま」は大事にしたいので、新しい物を書くことにしました。題名は「辻褄」。途中で終わっちゃうかもしれませんが、大きな心で読んでください。
ふと目が覚めてベッドから出ないまま少しだけ体を起こして時計を見る。
「ん…」
私は深夜の3時であることを確認するとバタンと音をたてて伏した。その瞬間、感触に違和感を覚えて上半身を起こしてみた。
「ん?」
見るとブラが無く、胸がはだけている…だけでなく完全に裸だった。それが視認出来るということは明かりが点いているということで、普段完全に消灯して寝るのと矛盾してる。裸で寝ているのもそう。
でも、寝ぼけているとそんなことなんかどうでもよくって。
「うあああ」
寝た。
その日の朝、私は隣でがさがさ物音がしたので目が覚めた。
…。
「会社!」
冷や汗で背筋が急に冷たくなったのを無視して起きあがると、忘れていたけど裸だった。その時横で、
「あ」
という漏れたような声が聞こえた。これは私が一人暮らしであることから考えてちょっと怖いことで、恐る恐る声のほうを見てみると何故かベッドから半分身を外に出し、おびえた感じの男が一人。彼も何故か裸だった。つまり、そういうことでしょう。
昨日酔っ払った覚えはないけど、酔っ払ったとしたらそれはそれで酔った記憶なんか残ってるはずはないわね。それよりここは私の部屋なのか疑わしくなって部屋を見回してみた。男はその間全く動こうともしないで…その視線は私の乳房に向けられていたけどそんなことはどうでもいい。どうせ「した」んだろうから。
見回す限りここは私の部屋だった。
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僕は寒気と共に生暖かさを感じて目が覚めた。右半身が寒くて左半身が柔らかく暖かいのは、不思議かつ多少なりとも不快なもので目を覚ました。寒いのはベッドの布団がちゃんとかかっていなかったからだと分かった。暖かいのは…
「ん…」
右隣、すぐ横から女性の声がした。布団が盛り上がって引っ張られた形になって、僕の寒く感じる範囲が広がった。盛り上がった布団から声を出した女性が姿を見せた。
「ん…」
僕はその時息を飲んだ。女性の綺麗な裸身が枕元の照明に照らされていて、その明るさの不十分な光の具合が彼女を彫刻にしていたからだ。
「ん?」
彼女 ― 誰だか分からない女性 ― は自分が裸であることに疑問を持ったみたいで周りを確認する素振りを見せた。
僕は慌てて布団に身を隠したが彼女は
「うあああ」
すぐに寝てくれた。
ベッドの様子からここが僕の部屋でないことは分かったので、このまま朝を迎えたらとんでもない事になる気がした僕はここを抜け出すことにした。女性に気づかれないように枕もとの時計を見てみると3時だ。3時に抜け出しては行き場所なんてない。ここが何処かも分からないのだから無謀なことは出来ない。5時ごろまで何とかおとなしくしているほかないようだ。
裸の女性を横にして正常でいられるわけもなかった。それが自分も裸であることに気づいたので余計だった。昨日何があったか思い出せない。普通に考えてみればこの女性を抱いたとしか思えない、けど、僕に行きずりでそんな冒険をする勇気はない。…どうなってるんだろう。
時折女性が寝息とともに寝返りをうつのが僕の心境を複雑にさせる。僕は何でここにいるんだろうか、いくら考えても分からない。考える物事も尽きてきて次第に時計を確認する感覚が短くなってきた。
「お」
ちょうど5時。部屋はカーテンが閉めてあって、少しは明るくなったものの部屋の中はよく見えない。まずはベッドから出て服を探さないといけない。帰り道やその手段を考えるのはその後だ。
そっと抜け出し…
「会社!」
「あ」
僕はあっけなく気づかれた。この先のことを考えて僕は身動きしないでボーっとしてしまった。
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この男は1分くらい私の胸を見ていた。そのくせなんかおびえた感じなのが気になる。だいたい、昨日抱いた女の胸を見て固まってるっていうのがおかしい。経験から言うと、男は次の朝にはもう、夜のような欲望なんか元からなかったような、冷めた感じで、
「シャワー借りるな」
とか言って5分くらい汗を流して帰っていく。汗だけじゃなく前日の私の肌の感触も流すんだと思う。
あ、朝気づいたらずっと寝ていた奴もいた。珍しいから起こして昼までじゃれ合って遊んだっけ。
で、この男は何? よく見れば無駄のない体つきで顔だってかっこいいんだけど、おびえた雰囲気に苛立った私は、
「いい加減見飽きたでしょ。ほらベッドから出てちょうだい」
と言ってみた。
そう言われた僕は我に返って、目が彼女のはだけた胸をとらえていたことに気付いて慌ててしまった。
「え、いや、見飽きてない。…じゃなくて見てない!」
私は、慌てて言い直して目をそらした男がおかしくて笑った。顔が真っ赤!
だからわざと布団を鎖骨のあたりまで引っ張って
「やだ! あんなに激しくしといて『飽きてない』なんて変態!」
と、今までやったこともない態度を取ってみた。もちろん恥らうような表情でね。
男はしどろもどろになって、
「そんな、何にも! あ!」
ベッドから降りようとしたみたいだけど、コケて顔から落ちた。痛そ〜。
顔からベシャっと落ちた僕は痛くてしばらく動けなかったが、その間に思い出したことがある。
昨日は、間違いなく家に帰ったんだ。見たいテレビ番組を確実に見たから。いや、毎日家に帰ってるんだけど、今日のような状況があると帰ってないのが普通だろうから一旦帰ってるのは不思議だ。帰る前にはラウンジバーでカクテルを飲んでいたのも思い出した。あの酒って帰ってから浮浪させる効果があったのだろうか。そう考えないと、ここにいるということが説明できない。
やっと動けた。
「あの、すぐに失礼しますので…」
「裸で?」
そう言われて自分の姿を思い出した。服、服…!
体を隠すように猫背で服を探しているので私も探してあげることにした。やさしいでしょ。
私のベッドは大き目のシングルで、圧迫感がいやなので枕元しか壁にくっつけていないから部屋を有効に使えていない。ベッドの足先にある小さいテーブルくらいしか物は置いてないので服があったらすぐに見つかるはず。一応ベッドの下や収納スペースを覗いてみるけどなかった。
私の部屋は2Kで、一応寝室とリビングにしている。当然バス・トイレ付き。こう言うと広く思われそうだけど、ベッドだって部屋の殆どを占めちゃってるしリビングはTVとCDコンポとソファくらいしかないの。キッチンがあると言ってもリビングの一部だから小さい冷蔵庫をソファの横に置いてる。あ、でも不満があるってことじゃないのよ。東京でこの部屋に月5万円くらいで住めてるんだから幸せだと思ってる。
この部屋で10分経っても服が見つからないっていうのは、ここには無いってことだと思うんだけど。
彼女も探してくれたが、無い。後になって気づいたが、どっちも裸だった。この女性は僕に見られても平気なのだろうか? このときはそれどころじゃなく、人の部屋であるにもかかわらずあちこち開けて探し回った。
でも、ない。これでは帰れない。困っていると彼女も困ったように腕組をして、
「うーん、その体に合う服は持ってないよ。大き目の服を探しておくからシャワー浴びたら?」
と提案してくれた。
「シャワー使っていいの?」
「おっけーおっけー。使っちゃって」
この男、動きを見てると真面目君にしか見えないので私みたいな遊び人とよく「した」もんだと思ってしまう。
男が風呂場に行くのと同時にインターホンが鳴った。インターホンに出ると、
「郵便です」
という女の声がした。
下着を付けるのも面倒だったから、パンツとセーターを直接着て玄関に出たけどそこには郵便屋じゃなく普通の若い女が立っていた。歳は私くらいだろう。この女は玄関に入って下を見た。その直後、男が風呂場から出てきて、
「服があった!」
と、びしょびしょの服を持っていたが玄関に人がいるのに気付いて慌てた。そして玄関にいる女は何故かこの男を見て…
「あ、やっぱりいたのね、マサヨシ! 何で女のところに裸でいるのよ!」
と怒鳴ったのだ。男はそれに対して相変わらずのしどろもどろで、
「あ、あー、何でこんなところにいるんだろう。分からないんだけどー、あー、あ!」
女がズカズカと私の部屋に土足で入り込み、私を押しのけて男のいる風呂場ドアのところに向かって男の…
「あがっ!」
股を蹴った。
土足で入られちゃ許せないから女の胸倉掴んで、
「靴脱げ」
と言ったら、引っ叩かれた。そして私が反撃しようとした直前に女は逃げていった。修羅場ってやつ?
何で美奈子はここに来たんだろう。まだ、5時半だ。それも…
「あ、会社! 今何時?」
女はガバっと起き上がったときと同じようなことを、股間を押さえて苦しんでいる僕に言ったので少し腹が立ったが答えてやった。
「5時半、ついでに土曜日」