はい、今日は。だいぶ時間的余裕があるけど、早速講義を始めようか。ん? 天気の話でもする? そんなのつまんないでしょ。じゃぁ、そうだなぁ……数学らしい話でもしようか。
パラドックスという言葉をご存知だろか? 正しい仮定のもとに間違った結果が出てくるような物事をいう単語だ。「矛盾」という日本語が最適だろうか。
数学の歴史はパラドックスの歴史だと言っていいほどだ。何か新しい概念が出てくる度にパラドックスが考えられてその新しい概念の正当性が議論されてきた。虚数なんかがいい例だね。パラドックスを知ると、数学は哲学であるということが良く分かると思うよ。
今日は無限についてのパラドックスを紹介しよう。「アキレスと亀」って奴だ。お、知っている人もいるようだね。大学生ともなれば知っているか。まぁ、いいや。紹介しよう。
紀元前5世紀の古代ギリシアで哲学者ゼノンが考えた話だ。アキレスという俊足の男がいて、亀と競争をした。亀にはハンディキャップとしてアキレスの前方にスタート地点を用意する。
ア 亀
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同時にスタートして、アキレスが亀のスタート地点の半分の距離まで進んだときには亀は少し前に進むね。
ア 亀
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そしてまた自分と亀との距離の半分だけ進む間に亀は少し進む。それを繰り返していくと、無限に繰り返してもアキレスは亀に追いつけない。距離は近づくけれど、いくら時間が経っても、永遠に追いつけないということだね。普通は追い抜けるから矛盾する、と言うんだがどうだろう? この話、実際は何の矛盾も無いんだ。分かり難いかもしれないが、仮定に間違いはないんだよ。この話でも亀は追い抜かれるってことだ。何が矛盾に見せている元凶なのか分かるかな? よし、誰か答えられるかな。君、分かる?
なるほど。時間を区切って扱っているのがいけない、か。いやいやそうじゃない。え、アキレスって名前がいけない? おいおい。じゃぁ、宿題にしようかな。これについて来週レポートで回答して正解だったら単位に加味するかもしれない。
さ、講義に入ろう。高次微分方程式の解法だけど……
----- 完
執筆後記
実験的小説とでも言いましょうか、遊んでみました。ほら、理系人間であるところも示さないとねぇ……(笑)。
アキレスと亀、何がおかしいんでしょう?